■嫌われ隊員日番谷■

 

一人、部屋で己の斬魄刀を片手で空につきあげ眺めていた。
あれほど手に入れようとした始解も今となっては、形になって真実となって空しく胸に残るだけ。
既に持っているものを手に入れようとする様は限りなく無様だった。
人は、他人の事はよく見えているのに、自分の姿形は分からない。
まさに自分はそれで、身体の中にあった力は何も見えていなくて、他ばかりいらないものを見ていた。総隊長に聞かなければ一生このままだったのかもしれないと、ふと総隊長の言葉が頭をよぎった。

 

 

『…お主は、他の者たちよりいち早く、始解を手に入れた。』

『統学院にも入ってはおらん幼子が、斬魄刀を持つなど。まして始解を会得するなど、前代未聞の出来事だった。
それはおぬしの知るようにあの日わしに知れた。そのまま流魂街で暮らすには、危険すぎたのじゃ。お主は最早天道の域を超えておった。
霊圧を得ただけで、指導も何も受けぬまま始解が起きるなど有り得んのだよ。
わかるじゃろう、諸君』

気がつくとそこには隊長格が並んでいた。

『急な収集によく集まってくれた。
これは御主等にも知ってもらわねばならん』
『この小さな子供がかネ。私の実験材料としては使えないヨ』
『・・・話を続けるぞ。
お主は、有り得ぬことばかり起こし皆は天童呼んだ。
しかしそれは有り得んことを起こしているのではなく、お主自身がこの世に存在することすら有り得ない。存在するはずの存在。
そのような魂魄は全く過去にはない。
今までの歴史を覆すようなそれは、悪影響を及ぼさないわけは無かったのじゃ、浮竹が書類を発見し、我等に提示した。
奴は今ここには出席しておらんのじゃが』

―悪影響、とは。

『お主の力は急速に、しかしまだまだ成長を続けいずれソウルソサエティをも飲み込んでしまう』

『それがお主が初めて始解にいたった後の隊首会で決定した。
かつては、先の護廷を築く逸材であろうとて皆思うとった。
じゃが、事はそのように巧くはいかぬのが自然の摂理というもの。
お主の始解を封印し、記憶を消し去った。
その時はいつ来るかは分からぬものじゃ』

―ならば、俺はどうすれば…

『なぁに心配することはないネ』
『日番谷、恨みはない。しかしこれしか君に道はない
本当にすまないよ』
『貴様がこの地を蝕み、自身の精神が傷つく前に』
砕蜂が続けた。

 


『我等の手で、貴様を処刑する。』

 


弁明はあるか、と問われた。
だがそれを言い返す力も、悲しむ力さえもなく、ただただこの世の矛盾を感じた。
処刑予定日は六年後。七年後には力が目覚める可能性があると言われる。
しかし、俺の記憶も始解を得ている事も知った今、次なる力へ進むべきだということは自分も分かっている。
だけど十年もしない間に自分は既に、死しているというのだ。
隊長達の一部が気の毒そうにぽつりぽつりと声をかけて出て行ったけれど、何の慰めでもない。
ただの哀れみがそこにはあった。
最後に、誰も残らない静かな一番隊執務室で、総隊長に尋ねたことがあった。

 


『俺は、生まれてこなければ良かったんだろうか』

 

何故か、声は震えることもなく真っ直ぐに伝わった。

 

『傷つけることしか、できないのですか』

 

雛森も、ソウルソサエティさえも。
そして総隊長はその問いには答えず、こう言った。

『…お主が死すれば現世へといける。そしてまた、お主が死すれば皆を護れる』

 

『それが俺の出来るたった一つのことですか』

無い。

知ってる

知ってる

でも、

言って欲しかった言葉があったんだ

 

『日番谷。これがお主の宿命という奴じゃ。本来なら隊長にしてやりたかった所だったのだが我等が知ってしまった以上、変える事など皆無じゃ。お主は、手放すには惜しい存在じゃった。』

シュクメイ?


『これは王族から直々の命令。反することも、意を示すことさえも許されん。』

 

『総隊長殿。了解しました、護廷の為に戦うことのできる唯一として、日番谷冬獅郎として、我が身を消し去りますこと。忠誠を誓う』

『・・・すまぬ』

『何を仰られますか。下級隊員に頭を下げておられてはなりません、総隊長殿』

『…そうじゃな。日番谷』

淡々とした口調に、少し驚いた様子だった総隊長は
下を俯いて日番谷の背中を見送った。

 

 

言って欲しかった。

こんなにも恋焦がれた。

ただ、護ることが自分にも出来るのだと、

嘘でも何でもいいから。

呪われた運命を恨みべきなのか、それともこれからの短い時間さえ大事にすると言って奇麗事を並べて、生きていけばいいのだろうか。
それにしてもなぜ六年後なのだろう。どうせなら今殺せばいいじゃないか。

苦しい。

自分が何かしたんだろうか、

この世界に生きていても役にはたてない。

なのに何故、こんなにも苦しくて

愛されたい、とわずかでも願ってしまう自分が居るのだろうか。

何故、失ったはずの幼馴染をいまだ、想っているのだろうか。

どうしてこんなにも、俺を陥れたはずのあの女が

本当は裏切ってなんかなかったんじゃないか、って

愚かな気持ちばかり滲みだしていくんだ。

 

 

私室の、不透明な青色に染まる窓の外は、嫌なくらい

何も見えなくて。

 

「じゃぁな。」

 

この世の、美しく悲しげな月よ。

静かなひんやりしたこの部屋。

小さな体に不釣合いな、斬魄刀。

 

「氷輪丸。悪いな、お前を長くは使ってやれない」

 

静かに、刀がことりと唸った。

それは

とても愛おしそうに、主の気づかない様に、小さく呟いた。

――お前には、私がいるよ。想っている人は、必ずいるよ。

気づいてないのは、お前だ。我が身の本体

 


 

 

______________________

ありがとうございました。

2008.1.24